Column コラム

りんご質問箱

むし歯のおはなし

前回は虫歯などによる、歯の痛みについてお話ししました。今回は虫歯の原因や進行のしかた、虫歯を放置するとどうなるかなどを中心にお話します。

虫歯の原因

むし歯のおはなし

虫歯には、お口の中に存在する数多くの口腔内細菌が関係しています。しかし、それらの細菌がいるからといって、必ず虫歯になるわけではありません。
お口の中の細菌は、あくまでも虫歯の原因の中のひとつに過ぎないのです。
虫歯の原因となるのは、主に歯質の弱さ・食べかすの量・虫歯菌の量などです。これらの条件が揃った状態で、ある程度の時間が経過すると、虫歯になっていきます。いくら歯の質が弱く、虫歯菌がたくさんいても、食後の歯磨きをきちんと行い、口の中を常に清潔に保って予防を心がければ、虫歯になりにくいのです。

逆に、いくら歯の質が良くても、いつも口の中に食べかすがいっぱいでは、虫歯になりやすいでしょう。

私達の口の中には、非常にたくさんの細菌が存在しています。それらの中で最も虫歯と関係があるのが、ミュータンス菌と呼ばれる細菌で、食物に含まれる糖質を分解して、グルカン(多糖類)と呼ばれる、ねばねばした物質を作ります。

ミュータンス菌は、歯に糖分が付着していると、そのねばねばした物質をどんどん作り続けます。当然そのまま時間が経てば、歯の表面はねばねばした物質でいっぱいになり、様々な口腔内細菌が付着していきます。いつしか、歯の表面は細菌やねばねば物質のかたまりで覆われてしまいます。それがプラーク(歯垢)です。

虫歯の予防

これら3つが主な原因なので、虫歯を予防するには、歯質を強くし、食べかすの量と虫歯菌の量を減らせば良いわけです。歯質を強くするためにはフッ素などが効果がありますが、大人になってからですとそれほど大きな効果はありませんし、虫歯菌の量は口腔内の衛生状態を良くすることで減らすことはできますが、無くなることはありません。

最も現実的な予防法は、やはり食べかすの量を減らすことです。毎食後の適切な歯磨きを心がけ、手の届かない所の汚れは歯科医院での定期的な検査と専門的な清掃を行うことで、虫歯のリスクは大幅に減らすことができます。

また、虫歯菌はほんの僅かであっても糖を含んだ飲食物を口にすると酸を作り出します。唾液のphは普段は6.7位ですが、虫歯菌の作り出した酸によってどんどん下がり、phが5.5以下くらいになると歯が脱灰し始めます。この状態は唾液によって中和されていくのですが、それには約20分かかるので、その間はどんどん脱灰が進んでいきます。これが虫歯になっていく状態です。

とは言っても、1日3回の食事と1~2回の間食程度であえば問題はありません。食事だけでなく飴やガムやチョコレートなどのお菓子や、コーラやジュースなどの清涼飲料でも、糖を含むものであればこの状態になります。飲食後にうがいや歯磨きをしてもこの状態はあまり変わりません。

この状態は唾液によって中和され、溶けだしたカルシウムやリン酸は再石灰化によってまた歯の中に戻って修復されます。酸性の状態が長いと、歯から溶け出すカルシウムの量が再石灰化によって回復する量を上回ってしまうため、虫歯になってしまいます。

つまり、少量であっても頻繁に飲食をしていると、口の中が酸性の状態のまま中和されなくなるために、常に虫歯になりやすい環境になるので、頻繁に飲み物を飲んだり飴やガムなどを食べるのを控えることも虫歯の予防に繋がります。また、口呼吸で口の中が常に乾いている人や唾液の分泌量が少ない人は、中和されにくいため虫歯になるリスクが高くなります。

虫歯の進行 C1

むし歯のおはなし

虫歯菌は、プラークの中で、ねばねば物質と共に酸を作り出します。歯の表面を覆っているエナメル質は、そのほとんどがハイドロキシアパタイトという、非常に硬い成分で出来ているのですが、外からの衝撃には強くても、耐酸性にはあまり優れていません。
プラークの中で作られた酸は、やがてエナメル質を溶かし始めます。これを脱灰作用といい、だんだん歯の表面が白く濁って見えるようになります。これが虫歯の初期段階で、脱灰した部分からは、どんどん細菌が侵入していきますが、この段階ではまだ痛みはありません。

ごく初期のこの時期に虫歯を発見する事が出来れば、治療もごく簡単に済むでしょう。
この段階を第一度の虫歯C1と呼び、これが虫歯の始まりなのです。

虫歯の進行 C2

むし歯のおはなし

最近、再石灰化という言葉を良く耳にすると思います。再石灰化とは、唾液の中のカルシウムやリンが歯に沈着し、脱灰した部分を修復して行く働きの事です。私達の体は侵され始めた歯を元に戻すために頑張っているのです。
しかし、これはあくまでも初期虫歯を少しずつ修復するに過ぎません。放置しておけば、虫歯菌はどんどんその数を増やし、歯を蝕んでいきます。

虫歯がエナメル質を超えて、その下の象牙質にまで及ぶと、病変は急速に広がって行きます。象牙質はエナメル質と違って、それほど硬くないためです。そのため、表面では小さな穴でしか無くても、奥ではとても大きなものになっている場合が多いのです。

また、進行した虫歯が歯髄(歯の神経)に近づくにしたがって、甘い物を食べると痛みを感じたり、冷たい空気や水がしみたりするといった自覚症状が現れて来ます。

この段階で発見する事が出来れば、まだ神経を取らずに、数回の来院で治療を終える事が出来ます。この段階を第二度の虫歯C2と呼びます。

虫歯の進行 C3

むし歯のおはなし

そのまま放置してしまい進行して行くと、虫歯は象牙質をどんどん蝕んで行きます。掘り進んだ虫歯は、何れは象牙質の更に下にある、歯髄にまで達してしまうでしょう。
歯髄とは、細い血管やリンパ管、神経等の集まった組織で、歯に酸素や栄養分を運んだり、不要な排泄物を取り除いたりしています。この歯髄が虫歯などの影響で炎症を起こした状態を歯髄炎と呼びます。

虫歯が歯髄にまで達したということは、虫歯に直接、神経の集まった部分を攻撃されるわけですから、痛みもいよいよ厳しくなってきます。この頃では、何もしなくても痛むようになり、常に虫歯の痛みに悩まされることになります。

ここまで進行してしまうと、歯髄を取り除かなければならないので、治療にはある程度の期間が必要になります。そして、歯に栄養を運んでいる部分を取り除いてしまうことになるので、歯はもろくなり、欠け易くなってしまいます。この段階を第三度の虫歯C3と呼びます。

虫歯の進行 C4

むし歯のおはなし

更に放置して虫歯が進行して行くと、酷かった痛みがなぜか無くなります。虫歯によって歯髄が全て侵されてしまい、歯が死んでしまった為です。
痛みが無くなって良かったと思うかも知れませんが、それは大きな間違いです。あくまでも、痛みを感じる神経が死んでしまった為に、痛みを感じないだけなので、歯の状態はどんどん悪化しています。

歯根の周囲を取り巻き、歯と歯槽骨(歯ぐきや歯の根を支える骨)を結び付けている歯根膜という部分が化膿すると、根っこで蓄積された膿(うみ)が袋状になり、歯ぐきからも出てくるようになります。そして、歯冠部(歯ぐきから出ている部分)はほとんど虫歯に溶かされてしまい、歯を残すことも困難になってしまいます。この段階を第四度の虫歯C4と呼びます。

このように、一度進行し始めてしまった虫歯は、正常な部分をどんどん食い荒らして行きます。そして、放置しておけばそれによる苦痛もどんどん増えて行きます。少しでも早く虫歯を発見し、治療する事が出来れば、それだけ苦痛も少なくてすむ上に、自分の歯をより良い状態で残す事が出来ます。虫歯は我慢していても良くはなりません。異常を感じたら、なるべく早いうちに治療を受ける事をお勧めします。